「スキリージ点滴静注600mg・皮下注360㎎オートドーザー」 概要・作用機序・類似薬・比較臨床試験

スキリージについての薬の概要・作用機序・類似薬・比較試験を専門薬剤師が監修して解説
スキリージ点滴静注・皮下注360㎎の概要をざっくり解説
・ 本剤は、IL-23p19という炎症に関連するサイトカインに対するモノクローナル抗体です。
・ 本剤はクローン病治療薬でこれまでにない新規作用機序の薬剤である(乾癬治療では既に使用されているがクローン病に対しては初となる)
・ 既存治療にて効果不十分な中等症から重症のクローン病患者に対して使用される
・ 点滴静注製剤にて寛解導入療法後に、皮下注製剤にて維持療法に移行する必要がある
(12週目からは「スキリージ皮下注360㎎オートドーザー」という別の製剤を使用)
・ 本剤の使用の優先順位は低いと考えられます

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スキリージの作用機序は?

スキリージは、クローン病の病態に関与するIL-23のp19蛋白質に結合し、IL-23を中和するモノクローナル抗体です。

※IL-23とは人の体内に元々存在するサイトカインであり、炎症及び免疫応答に関与しています。IL-23は17型ヘルパーT細胞(Th17細胞)の発生、分化及び機能を維持し、Th17細胞はIL-17-A及び-F並びにTNFαなどの他の炎症誘発性のサイトカインを産生し、炎症性自己免疫疾患の発症に重要な役割を果たしています。IL-23のその受容体への結合を阻止することにより、リサンキズマブはIL-23に依存する細胞のシグナル伝達及び炎症誘発性のサイトカインの放出を阻害します 

参考: スキリージ申請資料概要

クローン病治療で使用する抗体医薬品の類似薬は?

クローン病治療に使用する薬剤はいくつも販売されています。

特にスキリージとの類似薬としてはクローン病に使用する抗体医薬品はいくつか販売されておりますので「作用機序ごと」に分類しますとこのようになります。

分類製品名成分名効能効果
抗IL-12/23p40抗体ステラーラ点滴静注130㎎・皮下注45㎎シリンジウステキヌマブ(遺伝子組み換え)○中等症から重症の活動期クローン病の導入療法(既存治療で効果不十分な場合に限る)
○中等症から重症の潰瘍性大腸炎の寛解導入療法(既存治療で効果不十分な場合に限る)
抗TNFα抗体ヒュミラ皮下注アダリムマブ(遺伝子組み換え)既存治療で効果不十分な下記疾患
○多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎(40㎎のみ)
○中等症又は重症の潰瘍性大腸炎の治療(既存治療で効果不十分な場合に限る)
○関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)
○化膿性汗腺炎
○壊疽性膿皮症
既存治療で効果不十分な下記疾患
○尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬
○強直性脊椎炎
○腸管型ベーチェット病
○非感染性の中間部、後部又は汎ぶどう膜炎
○中等症又は重症の活動期にあるクローン病の寛解導入及び維持療法(既存治療で効果不十分な場合に限る)
抗TNFα抗体レミケード点滴静注インフリキシマブ(遺伝子組み換え)既存治療で効果不十分な下記疾患
○関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)
○ベーチェット病による難治性網膜ぶどう膜炎
○尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症
○強直性脊椎炎
○腸管型ベーチェット病、神経型ベーチェット病、血管型ベーチェット病(先発のみ)
○川崎病の急性期(先発のみ)
○次のいずれかの状態を示すクローン病の治療及び維持療法(既存治療で効果不十分な場合に限る)
 中等度から重度の活動期にある患者
 外瘻を有する患者
○中等症から重症の潰瘍性大腸炎の治療(既存治療で効果不十分な場合に限る)
抗α4β7インテグリン抗体エンタイビオ点滴静注用300㎎ベドリズマブ(遺伝子組み換え)中等症から重症の潰瘍性大腸炎の治療及び維持療法(既存治療で効果不十分な場合に限る)
中等症から重症の活動期クローン病の治療及び維持療法(既存治療で効果不十分な場合に限る)

類似薬の違いは?使用の優先順位は?

スキリージは他のバイオ製剤との比較試験は行われていません。

また、発売されたばかりですので日本のガイドラインや海外のガイドラインにも詳しく掲載されていません。

しかし、残念ながら使用順位は低いと思われます

スキリージの使用順位が低い理由を臨床試験やガイドラインを元に解説してきます。

クローン病の治療ガイドラインでのバイオ製剤の使用の優先順位は?

既存治療に抵抗性の重度のクローン病の治療で使用するバイオ製剤で最優先で使用されるのは抗TNFα製剤です。

そして、何らかの理由で抗TNFα製剤が使用できない場合に抗IL-12/23p40抗体(ステラーラ)や抗α4β7インテグリン抗体(エンタイビオ)が使用されます。参考:潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針

スキリージはどのような立ち位置になるのかはこれから検討されてくると思われますが、現時点ではステラーラやエンタイビオよりもスキリージが優先して使用されることはないです。

スキリージが他の抗体製剤に劣る理由は?

スキリージの使用の優先順位が低い理由としては、

「効果が他の抗体製剤に比べて(おそらく)弱いこと」
「スキリージは感染症やがんの既往がある方には使えないこと」

が挙げられます。

一般的に中等症もしくは重度のクローン病に対して、抗TNFα製剤を使用していた患者の治療効果のあまりよくない場合は、別の抗体医薬品に変更します。

ではどの製剤に切り替えるかと言うと、ステラーラを優先することが多いかと思います。

なぜなら、抗TNFαを直接比較試験の結果が発表され、ステラーラとアダリムマブ(ヒュミラ)が効果が同等であることが示されたからです。

ステラーラの有効割合は52週時点で65%であり、アダリムマブと非劣勢(61%)が示された。

参考: Lancet. 2022;399(10342):2200.

一方、

スキリージの有効割合はどうかと言うと、52週時点で55%という結果が示されています。参考: Lancet. 2022;399(10340):2031.

もちろん、ステラーラとスキリージを直接比較した試験ではありませんが、スキリージを優先する理由はないと考えられます。

感染症(重度感染症や結核がある場合)やがんの既往がある人は?

抗TNFα製剤やステラーラ、そして、スキリージは免疫を下げてしまうため上記の患者には使えません。

では、そのような患者さんには抗体医薬品が使用できないかと言うとそんなことはなく、唯一「エンタイビオ」は使用できます。参考:エンタイビオ添付文章

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現在のエビデンスを参考にすると「ヒュミラ」「レミケード」「ステラーラ」「エンタイビオ」が使えないクローン病患者にしかスキリージの出番はないと言えます。

スキリージの維持療法で使用するオートドーザーとは?投与にどれくらいかかる?

クローン病の治療に使用するスキリージは導入で点滴静注を行い、維持期で皮下注製剤に切り替えます。

維持期で使用する皮下注製剤は「オートドーザー」というものを使用します

オートドーザーとは投与速度を一定に投与が可能な機器で、大体5分ほどで投与が完了する製品となります。

注意:ペン製剤及びシリンジ製剤、オートドーザー製剤のいずれも、在宅医療における注射薬に関連する告示及び通知等において「厚生労働大臣が定める注射薬等」に含まれていないため自己注射はできません

スキリージ点滴静注の希釈方法に注意

スキリージの点滴静注製剤を投与する際の調製には5%ブドウ糖を使用します。

本剤を 「5%ブドウ糖液(日局生理食塩液は用いないこと)」を含んだ点滴バッグ又はガラス瓶に加え,総液量が 100 mL,250 mL 又は 500 mL となるよう希釈すること(本剤 600 mg を点滴静注する場合の最終薬物濃度:約1.2~6 mg/mL,本剤 1200 mg を点滴静注する場合の最終薬物濃度:約 2.4~12 mg/mL).なお,5%ブドウ糖液以外の溶液との配合に関するデータはない.

スキリージ点滴静注 インタビューフォームより

生理食塩液を使って調製できないので注意しましょう。(生食でのデータがないだけで配合変化を起こすわけではないようです)

参考:配合変化のデータベースを無料で公開中

著者の感想

中等症および重度のクローン病の患者に抗体医薬品を使用する場合にはスキリージを優先する理由は見当たりませんでした。

スキリージの出番として想定されるのは、「他の全ての抗体医薬品を試したけど、効果がイマイチ」という患者に対して候補となると考えられます。

また、既存の製剤の方が納入価が安い場合もありますので、薬価を考慮し選択する必要があると思います。医薬品の薬剤コストの計算や考え方については別の記事で詳しく解説しています。

参考:薬剤の切り替えによる薬価差益を考慮した薬剤費の試算方法

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