「メトジェクト皮下注」 概要・作用機序・類似薬・比較臨床試験

メトジェクトについての薬の概要・作用機序・類似薬・比較試験を専門薬剤師が監修して解説

メトジェクト皮下注が2022年11月に販売されましたので要点をまとめてみました。

メトジェクト皮下注の概要をざっくり解説
  1.効能効果「関節リウマチ」のみ
  2.メトトレキサート(MTX)の プレフィルドシリンジ製剤である。 
  3.皮下注製剤は下記のメリットがあるため、経口よりも優先して使用することがベター
 ◯飲み忘れ防止 ◯自己注可能 ◯副作用(消化管毒性)が少ない ◯BAが高く、高用量が投与可能なので効果が高い
  4.ただし、初期投与は下記の理由から内服の方がベター
 ◯ 経口のほうが投与が簡単 ◯初期投与量は経口でも皮下注でも同じBAである。
  5.本剤は自己投与が可能な製剤である


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メトジェクト皮下注の作用機序は?

MTX は RA の病態形成に関与する種々の細胞(T 細胞、好中球、マクロファージ及び滑膜線維芽細 胞など)に対して、アデノシン情報伝達促進を始めとする複数の分子作用機序を介して免疫及び炎症性反応を抑制し、抗RA作用を示すと考えられる。(メトジェクトインタビューフォームより

内服薬があるのに皮下注製剤が開発された理由は?

リウマチの治療にはメソトレキセートのカプセル(商品名:リウマトレックス)を使用することが多いです。

しかしリウマトレックスは休薬期間が必要な薬剤で、さらに症状や用量によってその休薬期間がバラバラだったりします。

通常、1週間単位の投与量をメトトレキサートとして6mgとし、1週間単位の投与量を1回又は2〜3回に分割して経口投与する。

リウマトレックス添付文書より

そのようなバラバラな休薬期間を間違えて、休薬せずに飲んでしまうといったアクシデントも頻繁に起こっています

それを受けて、2008年に厚生労働省から「抗リウマチ剤MTX製剤の誤投与(過剰投与)に関する医療事故防止対策について」及び「抗リウマチ剤MTX製剤の誤投与(過剰投与)防止のための取扱いについて(注意喚起)」がそれぞれ発出されました。

そこで開発されたのが、用量によらず「週1回の投与」と用法が統一された製剤の開発が進み、米国や欧州では既に導入されている皮下注製剤が日本でも開発が行われ、先日承認されたのが「メトジェクト皮下注」です。

さらに、メトジェクトには内服薬のメソトレキセートにはない特徴や違いがありますので解説します。

適応症が異なる

メトジェクトの適応は「関節リウマチ」のみですが、リウマトレックスの適応は「関節リウマチ」以外にも下記の適応があります。

リウマトレックスとメトジェクトの適応の違い

リウマトレックスメトジェクト
○関節リウマチ
○局所療法で効果不十分な尋常性乾癬
○関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症
○関節症状を伴う若年性特発性関節炎
○関節リウマチ

メトジェクトとリウマトレックスとの用量換算と効果の違い

内服薬と皮下注製剤の換算は下記のようになります。(添付文書より)

リウマトレックスカプセルメトジェクト皮下注
6mg7.5mg
8又は10mg7.5又は10mg
12〜16mg10又は12.5mg

また、メトジェクトの特徴として、内服薬に比べて皮下注製剤はバイオアベイラビリティが高いので、全般的に少ない用量で高い血中濃度が維持できます。

リウマトレックスカプセルメトジェクト皮下注
626±115820±80
7.5mg を投与したときのAUC0-inf(ng・h/mL)

さらに、内服薬は最高16mg/週であるのに対して皮下注は最高15mg/週が認められているので、内服薬よりも暴露量が高くすることが可能でより高い効果が期待できます

また、内服薬から皮下注製剤に切り替えることの有用性は論文でも報告がされています。

さらに、内服MTXに比べて忍容性が高い(消化管毒性の皮下注製剤は低い)皮下注製剤は内服薬に比べて副作用が現れにくいことがわかっています。

特に消化菅毒性が低いため、副作用で内服が困難な患者に対しても皮下注製剤は選択肢となりえることがわかります。

メトジェクトとリウマトレックスとの薬剤費の違い

薬剤費はメソトレキセートの内服薬が後発品である場合は、皮下注製剤に切り替えると薬価は高額であるため患者負担を増えます

1週間あたりのメトトレキサート経口製剤の投与量本剤の初回用量内服MTXの1週間の薬価
※()内は差益額
皮下注MTXの1週間の薬価
※()内は差益額
6mg7.5mg203.4(45)1797(230)
8又は10mg7.5又は10mg269.2(59) 又は 339(74)1797(230) 又は 2189(280)
12〜16mg10又は12.5mg406.8(89) ~ 542.4(118)2189(280) – 2551(330)

しかし、高額になる分、薬価差益は皮下注製剤のほうが大きくなります
※参考までにある医療機関の差益額を()内に表記

メトジェクトは「自己注が承認」されているため、多くは外来で処方することが多いと思われます。よって、薬価差益が大きい皮下注製剤を使用することで病院の収益という点ではメリットとなることが多いです。

ガイドラインではどうなっているか?

日本では皮下注製剤は販売されたばかりなので日本のガイドラインに記載はありませんが、欧米では使用されており、ガイドラインでも高い推奨度で記載されています

例えば、米国リウマチ学会(ACR)のガイドラインですが、効果不十分な場合は別の薬剤を追加するのではなく、皮下注製剤への切り替えを推奨しています

下記のガイドラインのP929あたりに記載がありますので詳しく知りたい人は参照してください。(https://www.rheumatology.org/Portals/0/Files/2021-ACR-Guideline-for-Treatment-Rheumatoid-Arthritis-Early-View.pdf

著者の感想

メトジェクトは有効性も高く、副作用の少なさからかなり有用な薬剤という印象です

病院経営の観点からの薬価差益を増える可能性も高いため病院経営の観点からもメリットがあります。

よって、適正な患者に使用することで患者-病院双方にメリットがある薬剤であると考えられます

ただし、既存の製剤の方が納入価が安い場合もありますので、薬価を考慮し選択する必要があると思います。医薬品の薬剤コストの計算や考え方については別の記事で詳しく解説しています。

参考:薬剤の切り替えによる薬価差益を考慮した薬剤費の試算方法

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