オンジェンティス錠25㎎という薬剤が2020年8月に販売されましたので、要点をまとめてみました。
・1日1回就寝前に服用する長期間作用型の製剤(ただし逆にアドヒアランスが低下する可能性あり※詳細は下記参照)
・同じ作用機序のコムタンと比較すると有効性・安全性は同等であることが示されている(優越性は示されていない)
・重度の肝障害(Child-Pugh分類C)では禁忌なので注意
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目次・・・
オンジェンティスの作用機序は?
レボドパ代謝経路の副経路に関与する酵素「COMT(カテコール-O-メチル基転移酵素)」を阻害してレボドパの生物学的利用率を増大させ、血中レボドパ濃度を上昇させ脳内移行を向上させます。
類似薬は?
COMT阻害作用を持つ薬剤は他にはコムタン(一般名:エンタカポン)が唯一の薬剤です。
商品名 | オンジェンティス | コムタン錠 (先発) | エンタカポン錠 (後発) | スタレボ |
成分名 | オピカポン | エンタカポン | エンタカポン | レボドパ/カルビドパ/エンタカポン |
薬価(1日分の薬価) | 957.4円(957.4円) | 126円(378円-2016円) | 34.9円(104.7円-558.4円) | 126円(378円-2016円) |
肝障害時の投与 | 禁忌(重度の場合) | 慎重投与 | 慎重投与 | 慎重投与 |
粉砕・経管投与 | 粉砕不明・簡易懸濁可 (8Fr) | 粉砕可・簡易懸濁可 (8Fr) | 粉砕可・簡易懸濁可 (8Fr) | |
投与方法 | 1日1回就寝前 (厳密にはレボドパと食事のそれぞれの間隔を1時間以上あければOK) | レボドパ製剤と同じ回数を同時投与 (症状により例外あり) | レボドパ製剤と同じ回数を同時投与 (症状により例外あり) |
オンジェンティスとコムタン(エンタカポン)との換算は?
今、コムタンを使用していてオンジェンティスに変えるという場合もあるかと思います。
その場合用量はどのように換算するの?
と思うかもしれません。
結論からいうとしっかりとした利力価換算はありません。
しかし、参考になる臨床試験(下図)や論文(Neurology2018 May 22;90(21):e1849-e1857. doi: 10.1212/WNL.0000000000005557. Epub 2018 Apr 25)がありますので紹介します。
これらのデータから力価換算の目安はこのようになります。
コムタン200mg/回 = オンジェンTティス50mg/回
ちなみに1例だけですが、オンジェンティスを内服している患者が入院してきたときに採用していなかったのでコムタンに切り替えたことがありますが、その際は上記の換算で問題なく切り替えられました。
オンジェンティスとコムタンでどちらが服薬アドヒアランスが向上するか?
オンジェンティスは1日1回であるのに対してコムタンは1日最大8回服用するため、一見するとオンジェンティスのほうがアドヒアランスは良さそうではあるが、逆です。
コムタンは基本的にレボドパ製剤と同時に服用するため1日に飲む回数は増えません(錠数は増えますが)
一方、オンジェンティスはレボドパ製剤を1時間以上間隔をあけないといけないため通常は寝る前に飲むため服用回数が1回増えることになります。(眠前に飲んでいる薬があれば変わりませんが)
例えば1日3回レボドパを飲んでいる人は
コムタンなら1日3回ですが、オンジェンティスは眠前なので1日4回になります。
オジェンティスにすると1日の服用回数が増えて逆に患者の飲み忘れに繋がる可能性があるので注意が必要です。
オンジェンティスの安全性のデータは?
審査報告書を確認すると、若干ジスキネジアの発現割合が多いようではありますが、オンジェンティスとコムタンを比較した場合、おおむね安全性に違いはありません。
コムタン群(200㎎/回) | オンジェンティス群(50㎎/回) | |
---|---|---|
有害事象発現頻度 | 56.6% | 53.9% |
重篤な有害事象発現頻度 | 6.6% | 3.5% |
ジスキネジアの発現割合 | 8.2% | 15.7% |
参考:オンジェンティス審査報告書より
ただし、このデータは「臨床試験期間の短期間」での安全性であって長期的な安全性を保障するデータではないので注意してください。
ガイドラインではどうなっているか?
ガイドラインにはコムタンもオンジェンティスも有効性・安全性に問題はなかった
との記載に留まり、2剤間で推奨度に区別はないようです。
ですが一方で、
tolcapone(本邦未承認の類薬)で問題になった肝障害についてはエンタカポン(コムタン)は長期試験でも報告されておらず安全と言える
パーキンソン病治療ガイドライン
とあり、
さらにオンジェンティスのRMPでは肝障害が潜在的リスクとして挙げられています。
つまり、コムタンは短期的・長期的安全性が示されているが、オジェンティスは長期的安全性が不明ということです。
オンジェンティスの食事の影響はあるのか?
食事の摂取により本薬の Cmax 及び AUC はそれぞれ約 0.4 及び約 0.7 倍に低下したとあります。(海外第Ⅰ相 試験(BIA-91067-128 試験)
しかし、食後に服用した試験においても効果の減弱は認められなかったため、食事により血中濃度は低下するが薬効に影響するほどではないということがわかっているようです。(海外 301 試験)
どうして、添付文書に「食事の前後 1 時間を避けて服用する必要がある」旨の記載があるのか?
理由は、日本人における臨床試験で食事の前後 1 時間を避けて服用した患者で本薬の有効性及び安全性が示されているからです。
つまり、おそらく食事の影響はないけど、日本人の臨床試験では空腹時に服用してたから一応ねってことです。
著者の感想
コムタンとオジェンティスを比較したら、今のところオンジェンティスを積極的に選ぶ理由は少ないですね。
理由は
・薬剤コストはコムタン(後発品)のほうが安い
・オンジェンティスはアドヒアランスが悪くなる可能性がある
・長期的な安全性が不明
・重度の肝障害患者には禁忌
また、既存の製剤の方が納入価が安い場合もありますので、薬価を考慮し選択する必要があると思います。医薬品の薬剤コストの計算や考え方については別の記事で詳しく解説しています。