アロカリス点滴静注235㎎という薬剤が販売されましたが、この薬剤を深堀りしていきたいと思います。
・ アロカリスは、本邦で2剤目の選択的NK1受容体拮抗型制吐剤です。
・ アロカリスは成人に対してのみ承認されており、小児に対しては臨床試験を実施していない。(類薬のホスアプレピタントは小児の適応あり)
・ アロカリスはホスアプレピタントと比較して遅発後期の制吐効果に優れるとの意見もあるが、統計的には非劣勢である(ただし傾向は認められる)
・ アロカリスはホスアプレピタントと比較して注射部位反応の発生率は0.3%(1/392)とアプレピタント(3.6%)よりも低い
・ アロカリスはパロノセトロンと混合して投与することが可能なため、投与の時間短縮のメリットがある。(一方、ホスアプレピタントはパロノセトロンと3時間で配合変化が確認されており、配合不可))
・ 日本のガイドラインには未掲載であるが、ASCOのガイドラインではNK1受容体拮抗薬の一つとしてホスアプレピタントと同列で紹介されている
・ 仮に同効薬の「ホスアプレピタント」の後発品からアロカリスへ切り替えた場合、薬剤コスト増となる可能性が高い
監修薬剤師

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目次・・・
作用機序は?
「アロカリス」の作用機序は選択的NK1受容体拮抗型の制吐剤です。

アロカリスの類似薬は?
アロカリスと同じ作用機序の薬剤はこのようになっています。
商品名 | アロカリス | イメンド | プロイメンド |
一般名 | ホスネツピタント | アプレピタント | ホスアプレピタント |
使用可能年齢 | 成人 | 生後6か月以上 | 12歳以上 |
使用可能となっている年齢が異なることに注意が必要です。
ホスアプレピタント(プロイメンド)との比較臨床試験
アロカリスはホスアプレピタント(プロイメンド)との類似薬ですが、上記以外にも違いがありますのでまとめます。
アロカリスにデキサメタゾンを併用するときの減量はホスアプレピタントと同等
ホスアプレピタントはデキサメタゾンの血中濃度を上昇させることが知られています。
the AUC of oral dexamethasone (20 mg day 1 and 8 mg days 2 to 5) was increased 2-fold when coadministered with
参考:uptodate
aprepitant (125 mg day 1 and 80 mg days 2 to 5)
ですので、ホスアプレピタントにデキサメタゾンを併用するときは、大体50%ほど減量して使用することが多いです。
ではアロカリスにデキサメタゾンを併用する場合はどうかと言うとやはり同じように半分に減量すればよいと考えられます。
理由は、アロカリスもデキサメタゾンの血中濃度を2倍以上増加させることが知られているからです。
netupitant (single dose of 100 mg, 300 mg, or 450 mg) increased the exposure to dexamethasone (20 mg on day 1, 8 mg twice daily on days 2 to 4) in a dose- and time-dependent manner.1,2 With coadministration of 100 mg, 300 mg, or 450 mg of netupitant, the dexamethasone AUC on day 1 increased 48%, 72%, and 75%, respectively. The AUC on day 2 increased 109%, 143%, and 158%, respectively, and the AUC on day 4 increased 75%, 140%, and 170%, respectively
それを踏まえて、比較臨床試験では、デキサメタゾンの用量はアロカリスもホスアプレピタントも同量のデキサメタゾン投与量で試験をしているからです。

参考:J Clin Onco. 2022 Jan 10;40(2):180-188. doi: 10.1200/JCO.21.01315.https://ascopubs.org/doi/full/10.1200/JCO.21.01315
注射部位反応はアロカリスでは起こりにくい
注射部位反応の発生率はアロカリスが0.3%(1/392)でアプレピタント(3.6%)とのデータがあります。
参考:J Clin Oncol. 2022;40(2):180. Epub 2021 Nov 18
アロカリスの配合変化は?(アプレピタントとの比較)
アロカリスはパロノセトロンと混合して投与することが可能です。しかし、まったく配合変化を起こさないわけではないので注意してください。

一方、アプレピタントも配合変化を起こしやすいわけではありませんが、アプレピタントはパロノセトロンと混合すると3時間で分解物の増加が認められ、析出の可能性があることが知られています。

このように、アロカリスはパロノセトロンと配合変化を起こさないため、同時投与が可能なため臨床試験では上記のように「パロノセトロンは単独投与」でアロカリスは「パロノセトロンと混合して投与」しています。
ですので、アロカリスはパロノセトロンと混合して投与することができるので投与時間を短縮できる可能性があります。
ただし、パロノセトロンとアプレピタントを混合後すぐに投与すれば問題ないためそこまで大きなアドバンテージにはならないです。
ガイドラインではどうなっているか?
ASCOのガイドラインを参考にすると、NK1受容体拮抗薬として同列で挙げられているのでアプレピタントとアロカリスで優先順位に差はないです。

参考:https://www.asco.org/sites/new-www.asco.org/files/content-files/advocacy-and-policy/documents/2020-Antiemetic-Dosing-Clinical-Tool%20%281%29.pdf
アロカリスとホスアプレピタントのコストを比較すると?
薬価で比較すると、このようになっています。
医薬品名 | プロイメンド(先発品) | ホスアプレピタント(後発品) | アロカリス |
薬価 | 11,276円 | 5,734円 | 11,276円 |
また、薬価差益はどの薬剤でも3千円くらい(?)で薬剤間で差がないと言われています。
⇒つまり、DPCの病院では単純に購入価格の安い「ホスアプレピタント(後発品)」を使ったほうが病院経営上は有利となります。
著者の感想
注射部位反応を重要視するならアロカリスを使用したほうが良いですが、有効性に差がないため病院経営上有利な方(おそらくホスアプレピタントの方が有利)を使用するというのもありかと思います。