「イノソリッド配合経腸栄養半固形剤」 概要・作用機序・類似薬・比較臨床試験

イノソリッドの類似比較
イノソリッド半固形剤の概要をざっくり解説
・ イノソリッドは、既承認の「ラコールNF配合経腸用半固形剤」の改良版
・ 「日本人の食事摂取基準2020年版」に基づいて規定されたミネラル及びビタミンの推奨量・目安量を充足できるように設計
・ ラコールNF半固形剤よりも使用できる上限量が低い
・ 魚油を配合しているため周術期の休薬を考慮する必要がある
・ ラコールNF半固形剤よりもビタミンAの含量が増えたので妊婦禁忌が追記となった
・ ラコールNF半固形剤よりもビタミンKの含量も若干増えているのでワーファリンとの併用には変わらず注意
・ ラコールNF半固形剤よりも薬価は高くなる

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イノソリッド半固形剤の特徴は?

イノソリッド経腸半固形剤は半固形状に調整した経腸栄養剤で液体の経腸栄養剤よりも短時間で投与することが可能です。元々は2014年にラコールNF配合経腸栄養半固形剤として販売されていましたが、「第6次改訂日本人の栄養所要量(2000年)」に合わせて栄養素を改良し、長期において経腸栄養剤で栄養を取っている患者において十分は栄養を摂ることができるように設計されています。

ラコール半固形剤とイノソリッド半固形剤の成分比較

ラコールNF経腸栄養半固形剤とイノソリッド経腸栄養半固形剤の栄養素の組成はまとめると以下の表のようになります。

   

イノソリッド(1包300g)
薬価:1.44円/g

ラコール半固形剤(1包300g)
薬価:1.08円/g
栄養素 許容上限摂取量(成人) 用量:1日900~1,500kcal 用量:1,200〜2,000kcal
ビタミンA(IU) 5000 1000(最大5包) 621(最大8袋)
ビタミンD(IU) 2000 200 40.8
ビタミンE(㎎ α-TE) 6000 7.49 1.95
ビタミンK(μg) 30,000 24.99 18.75
ビタミンB1(μg) なし 369 1140
ビタミンB2(μg) なし 534 735
ナイアシン(mg) 30 5.01(最大6袋) 7.5(最大4袋)
ビタミンB6(mg) 100 0.468 1.125
葉酸(μg) 1000 80.1 112.5
ビタミンB12(μg) なし 1500 0.96
ビオチン(μg) なし 16.68 11.58
パントテン酸(μg) なし 2001 2874
ビタミンC(mg) なし 66.9 84.3
カルシウム(mg) 2500 293.4 132
鉄(mg) 40 3.669 1.875
リン(mg) 4000 333.6 132
マグネシウム(mg) 700 123.6(最大5.7包) 57.9
カリウム(mg) 2000 552(最大3.6包) 414(最大4.8包)
銅(mg) 9 0.3 0.375
ヨウ素(mg) 3 0.0435 なし
マンガン(mg) 10 1.335 なし
セレン(μg) 250 0.0168 なし
亜鉛(mg) 30 3.669 1.92
クロム(μg) 250 13.5 なし
モリブデン(μg) 250 10.2 なし

ラコール半固形剤からイノソリッド半固形剤ではどう変わったかまとめると、

◯増量した成分:リノール酸、Na,Ca,Mg,P,Cl,Fe,Zn,Mn,ビタミンA・D・E・B12

◯減量した成分:トリカプリリン,Cu,ビタミンB1・B2・B6・C、ニコチン酸アミド、パントテン酸、葉酸

◯追加した成分:DHA、イヌリン、I,Se,Cr,Mo,カルニチン、コリン

これらの成分の違いからどのような違いがありか解説します。

イノソリッドの用量の上限は?ラコールNF半固形剤よりも使用できる上限量が低い?

ラコールNF半固形剤の用量が添付文書には、1,200〜2,000kcalとありますが、イノソリッド半固形剤には1日900~1,500kcalとありますのでイノソリッドのほうは上限が500kcal低く設定されています。

ただし、「適宜増減」の文言もありますので1,500kcalよりも多い量を使用するのは問題ないと思います。

ですが、イノソリッドを1日1500kcal分使用することで、日本人に必要な栄養素の「許容量」をぎりぎり超えないような設定になっているため基本的には1500kcal(5袋分)が上限となると考えられます。

1 日900 kcal の投与で JPN-DRI(2020 年版)に基づく RDA 又は AI を充足し、1 日 1500 kcal の投与で JPNDRI(2020 年版)の UL を下回るよう RASS から配合量を変更した

イノソリッド 承認審査資料より

実際にビタミンAはイノソリッド1袋に1000IU含まれますが、許容量は5000IUなので5袋以上は許容量を超えてしまうので長期的に5袋を超えるのは避けた方が良いです

魚油を配合しているため周術期の休薬を考慮する必要がある

イノソリッド経腸栄養半固形剤には1袋(300g)あたり魚油を618.9mg含んでいます。魚油の組成としてはω3(EPA、DHA):ω(リノール酸等)が1:3となるような組成となっています。つまりω3系は約150㎎/包含まれるためロトリガの1/10くらいの含量になります。(ロトリガ(2g/包)にはEPAが約930mg、DHAが約750mg含有)

EPA、DHAの含量は少ないですが、施設によって周術期には休薬をすべきか検討することをおすすめします。

同じように魚油を含む経腸栄養剤には「エネーボ(魚油:100㎎/缶)」「イノラス(魚油:456mg/1袋)があります。

ラコールNF半固形剤よりもビタミンAの含量が増えたので妊婦禁忌が追記となった

ラコールNF半固形剤は禁忌の項目に妊娠の制限の記載はありません。一方、イノソリッドは妊娠している患者には条件付きですが禁忌となります。

【禁忌】妊娠3箇月以内又は妊娠を希望する女性へのビタミンA5,000IU/日以上の投与

イノソリッド 添付文書

ビタミンA5000IUはイノソリッドを5袋で上限となります。よってイノソリッドを5袋以上使用する場合には妊婦禁忌に該当するので注意してください。

一方でラコールNF半固形剤を最大の2000kcal分投与してもビタミンAは4,140IUのため5000IU以下となりますので、高用量の経腸栄養剤を妊婦患者に使用する場合はラコールNF半固形剤のほうが適しています。

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著者の感想

長期で経腸栄養剤で栄養を摂取している患者の場合、微量元素の欠乏症が問題になりますので、イノソリッドは微量元素の欠乏症の懸念がある患者にはメリットがあり薬剤です。

ですが、一方で薬価がラコールNF半固形剤(1.08円/g)よりもイノソリッド(1.44円/g)のほうが高額です。

半固形の経腸栄養剤は基本的には入院患者に使用することが多いと思います。DPCの病院ではラコールNF半固形剤からイノソリッドに切り替えると数十万の薬剤費の増加が見込まれます。

実際は微量元素を含む半固形の流動食(アイソカル、アクトエール、エコフロー等)が多数販売されており、イノソリッドが必ず必要という施設は少ないと考えられます

実際は、ラコールとイノソリッドの納入価を使って計算する必要があります。医薬品の薬剤コストの計算や考え方については別の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。

参考:薬剤の切り替えによる薬価差益を考慮した薬剤費の試算方法

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