「テゼスパイア皮下注210mgシリンジ」が2022年11月に薬価収載されましたので要点をまとめてみました。
・作用機序はTSLP(気道上皮細胞から産生されるサイトカインの一種)を標的としたモノクローナル抗体製剤で新しい機序の薬剤
・海外のガイドライン(GINA2022)において、「2型炎症の喘息」に対して他のモノクローナル抗体製剤と同列で扱われている(Evidence A)
・「2型炎症の喘息」だけでなく「非2型炎症の喘息」に対しても効果を示す唯一の生物学的製剤である。
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目次・・・
テゼスパイア皮下注の作用機序は?
上皮細胞から産生されるサイトカインの一つに胸腺間質性新生因子(thymic stromal lymphopoietin:TSLP)があり、アレルゲンなどの外的刺激により誘引され炎症経路を活性することで喘息を悪化させると考えられています。
本剤は、このTLSPに結合するモノクローナル抗体で、活性を直接阻害することで喘息症状の増悪を抑制すると考えられています。
テゼスパイア皮下注の特徴は?
デゼスパイアは「PATHWAY試験」において、バイオマーカー (血中好酸球数、FeNO、特異的IgE) に よらない喘息増悪抑制効果を示したことから、これらの指標に基づく患者選択の必要性がないという特徴があります。
(参考:PATHWAY試験:https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1704064)
ここで出てくる3つのバイオマーカー 「血中好酸球数」「FeNO」「特異的IgE」はいわゆる「2型炎症」と言われるタイプのバイオマーカになります。
タイプ別バイオマーカー
2型免疫タイプ | 非2型免疫タイプ |
---|---|
FeNO | 喀痰好中球 |
血中好酸球数 | 血中好中球 |
喀痰好酸球割合 | IL-8 |
血清総IgE | IL-17 |
IL-4 | YML-40 |
IL-5 | 硫化水素 |
IL-13 | TNF-α |
MBP | KL-6 |
ECP | SP-D |
Eotaxin |
テゼスパイアが 「血中好酸球数」「FeNO」「特異的IgE」が陰性でも効果があることが証明されていますが、その理由は、TSLPは炎症経路の上流のTSLPの活性を阻害することで、好酸球炎症タイプ(2型炎症)だけでなく、非2型炎症の抑制に働いたためと考えられます。
詳しくは「アストラゼネカの上皮サイトカインによる気道炎症の制御」のページがアニメーションでわかりやすいです。
一方で、後で紹介していますが、喘息に使える抗体製剤がいくつか販売されていますが、どれも「3つのバイオマーカーのどれはが陽性」である必要があります。
つまり、喘息に使用できる抗体製剤はいくつかありますが、非2型炎症タイプに使用できる抗体製剤はデゼスパイアのみとなっております。(GINA 2022ガイドラインではデュピクセントも推奨されていますが、日本では未承認ですので注意が必要です)
ちなみに、上記の3つのバイーマーカーの1つも陽性にならない人はどれくらいいるかというと、重症喘息患者のうち「12%」と報告されていますので、一定数の需要がある薬剤と言えます。
テゼスパイア皮下注の類似薬は?
TSLPを標的とした抗体製剤はデゼスパイア皮下注が唯一の製剤となります。ただし、喘息治療に使用される抗体製剤は様々なサイトカインを標的としたものが販売されています。
喘息治療に使用される抗体製剤一覧
商品名 | デュピクセント皮下注300㎎ | ヌーカラ皮下注100㎎ | ファセンラ皮下注30㎎ | ゾレア皮下注150㎎ |
分類 | 抗 IL-4/13受容体抗体製剤(IL-4Rα) | 抗 IL-5抗体製剤 | 抗 IL-5R抗体製剤 | 抗 IgE抗体製剤 |
適応症 | ○アトピー性皮膚炎 ○気管支喘息 ○慢性副鼻腔炎 | ◯好酸球性多発血管炎性肉芽腫症 ◯気管支喘息 | ◯気管支喘息 | ○気管支喘息 ○季節性アレルギー性鼻炎 ○慢性蕁麻疹 |
患者選択基準 | ・血中好酸球数が 150/μL 以上、または FeNO が 25 ppb 以上である患者 ・血清総 IgE 値が 167 IU/mL 以上である患者 | ・血中好酸球数が 150/μL 以上、または過去 12 か月間に 300/μL 以上を認める患者 | ・血中好酸球数が 150/μL 以上、または過去 12 か月間に 300/μL 以上を認める患者 | ・特異IgE抗体陽性 ・血清総 IgE 濃度が基準を満たす |
これらの抗体医薬品の分類を見てもらうとわかると思いますが、全て「2型タイプ」を標的としていることがわかります。(2型炎症タイプのサイトカインに作用します)
テゼスパイア皮下注はガイドラインでの立ち位置はどうなっているか?
テゼスパイアは販売されたばかりなので日本のガイドラインには記載されていませんが、海外のガイドラインには記載があるので参考までに紹介しますが、「2型炎症」による喘息に対しては抗体医薬品は同列に扱われています。(Evidence A)
使いわけとしては上の「抗体製剤一覧」にも書いてますが、バイオマーカー (血中好酸球数、FeNO、特異的IgE)の数値で選択することとなります。
ただし、2型炎症ではない場合(つまり(血中好酸球数、FeNO、特異的IgEが陰性の場合)はテゼスパイアが唯一選択できる抗体製剤となります。※デュピクセントが挙げられていますが本邦では適応外となります。
詳細はGIGAガイドラインを参照ください。
著者の感想
テゼスパイア皮下注は炎症マーカーに関係なく効果を示すので、喘息治療で発生しているギャップを埋める良い薬だと思いました。
重度の喘息患者ほとんどがこれまでの治療薬で対応できますが、その中の一部の喘息患者では2型炎症マーカーが上がらない方がいるからです。
ただし、テゼスパイア皮下注は自己注がまだ認められていないので、基本的にはこれまでの抗体医薬品が優先的に使用されて、非2型炎症の喘息患者にはテゼスパイア皮下注を使用することが多くなるのではと思います。
また、既存の製剤の方が納入価が安い場合もありますので、薬価を考慮し選択する必要があると思います。医薬品の薬剤コストの計算や考え方については別の記事で詳しく解説しています。