最近は、国が医療費削減のために後発品の使用を推進してます。
後発品を使用するインセンティブとして使用割合に応じた診療報酬の加点があります。
その結果、多くの病院は後発品の導入を積極的に進めてきましたが、病院経営の観点からはかなり損をしている場合があります。
損をしていないか簡単にシミュレーションできる「薬価差益自動計算ツール」を作成しましたので、実例を紹介しながら、使い方を解説します。
目次・・・
薬価差益自動計算ツールでの損益シミュレーション
薬価差益の変動を試算するにあたって必要な情報が下記の4つが必要です。
① 現在採用している薬(先発品など)の「薬価」と「納入価格」 ※この差が薬価差益となります
② 切り替えようとしている薬(後発品など)の「薬価」と「納入価格」
③ DPCの包括範囲内で使用した「①の薬剤」の「処方数量」
④ DPCの包括範囲外(つまり出来高で)算定した「①の薬剤」の「処方数量」
これらの情報を調べたら、下記に入力してみてください。
この薬価差益自動計算ツールは、先発品から後発品に切り替えるときにもちろん使えるのですが、同効薬に変える際にも使えますのでそれぞれのパターンの実例を紹介します。
パターン1:先発品から後発品に変える場合
使い方の解説と合わせて実際の例を紹介します。
抗がん剤A(先発品)から後発品の抗ガン剤Bに切り替えを検討した場合となります。
薬価と納入価格が下記のようだったとします。
抗がん剤A(先発品) | 抗がん剤B(後発品) | |
薬価 | 118714 | 79151 |
納入価格 | 91409 | 56829 |
当院では「抗がん剤A」の年間使用量の内訳は下記であったとします。
DPC包括範囲内での使用量 | DPC包括範囲外(出来算定)での使用量 |
20 | 254 |
納入価格が安くなっている(9万円から5.6万円に下がっている)ので、ぱっと見ると後発品に変えたほうが病院経営上プラスになりそうに見えますが、実際はかなりのマイナスとなります。
「薬価差益自動計算ツール」で計算することこうなります。
このようにしっかり計算すると、後発品に切り替えてしまうと年間で57万円以上の減収となることがわかります。
パターン2:類似薬へ切り変える場合
新薬はどんどん販売されますが、それらをすべて採用してしまうと採用数が膨れ上がり、在庫コストも嵩むため多くの施設では1つ採用するときは同効薬(類似薬)を削除する「1増1減」を原則にしていることが多いと思います。
その時にもこの「薬価差益自動計算ツール」が有用ですので実例を紹介します。
2022年月に発売された「エパデールEMカプセル2g」の採用を審議するにあたり、すでに採用されている同成分の「イコサペント酸エチル粒状カプセル900mg」と切り替えるべきかについての例となります。
商品名 | エパデールEMカプセル | イコサペント酸エチル粒状カプセル900mg(後発品) |
成分(1包中の含量) | イコサペント酸エチル :2000㎎ | イコサペント酸エチル :900㎎ |
効能 | 高脂血症 | ・閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛及び冷感の改善 ・高脂血症 |
用量 | 1回2gを1日1回 (最大1回4g、1日1回まで増量) | 1回900mgを1日2回 (最大1日3回まで増量可) |
薬価(1日量換算) | 113.0(113.0-226.0) | 34.30(68.6-102.9) |
納入価格(1日量換算) | 107.2(107.2-214.4) | 29.3(58.6-87.9) |
この病院での「イコサペント酸エチル粒状カプセル900mg(後発品)」の年間使用量の内訳は下記であったとします。
DPC包括範囲内での使用量 | DPC包括範囲外(出来算定)での使用量 |
4508 | 10843 |
この使用実績から切り替えによるコスト試算をすると、年間13万円ほどコストが増加することがわかります。
このように類似薬との切り替えを検討する際に、コストの観点からも議論することができるようになりますので便利です。
薬を採用するか決める際の注意点とおすすめの対策
今回紹介した「薬価差益自動計算ツール」を使えば薬を採用するときにどれくらい薬価差益がどう変わるが具体的な数字を示せるので審議の際に資料として提出しやすいと思います。
ですが、コストの資料を提出する際に2つの注意点があります。
① 薬の効果などのメリットとコストのデメリットのバランスを間違えない
② 病院内の立場により忖度が発生する
例えば、先ほど例に挙げた「エパデールEMカプセル」では導入するとコストが増えることがわかりました。
ですが、こちらの薬は従来のEPA製剤よりも「TGを下げる効果が高く」また「心血管イベント」の抑制効果が証明された薬剤です。
そのようなエビデンスと年間14万円のコストをどう扱うかは難しく、高度な判断が求められることとなります。
また、2つめの注意点に上げた「忖度が発生する」というのも特に大きい病院ではよく見られます。
例えば、病院内で発言権のあるそれなりの立場の医師が「エパデールEM」を使いたいと主張すればいくらコストの点が問題となっても採用せざる得ない状況があるかと思います。
この場合、理想を言うなら「医師の立場」と「病院の立場」にとってwin-winとなる折衷案を模索していくこととなりますが、中々難しいのが現実かと思います。
そういった問題の対策としておすすめなのが、コンサルなどの外部の意見を取り入れるという方法です。
外部からの意見として委員会の遡上にあげることで、納得感の得られる結果に導けることが多いです。
当サイトの監修薬剤師がエパデールを評価するどうなるのか?
当サイトの監修をしている薬剤師は大学病院で採用に関わっており、コスト試算を含めた審議を取り入れております。特に大学病院は高額な薬剤を取り扱っているため1剤で1千万のコスト変動がある薬剤もあり、病院経営にかなり貢献しております。
その薬剤師に今回例示した「エパデールEM」はどのように評価になるか確認したところ、下記のように考えるとのことです。
・コストの部分を精査すると、この13万円のコストの増加は主に入院中の使用による部分が大きい(約10万円)
・新薬の「エパデールEM」はTGの降下作用は2gの時は既存のEPA製剤と非劣勢であり、4gで初めて優越性を示す
・心血管イベントの抑制効果がREDUCE-IT試験にて示されたが、約5年間という長期服用の結果であり、また本試験はプラセボとの比較であり既存のEPAで優越性を示したわけではない結論:上記の施設でのEPA製剤の使用状況であれば、エパデールEMの採用の必要性は低い。理由は入院中の短期的は使用で心血管イベントに影響に影響するとは考えにくく、また既存のEPA製剤で効果不十分の場合に選択肢とはなることもあるが、それでもあえて入院中に使用する理由はなく、外来に移行後に使用を検討しても問題ないと考えられる。
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当社では大学病院において、医薬品の採否の判断に専門薬剤師として薬学的な評価のみならず、コストを勘案し、薬事委員会にアドバイスをすることで医療の質を下げることなく病院の薬剤コストを「年間5千万円」削減した実績があり、当社では「病院様向け」および「製薬会社様向け」に下記のサービスを行っております.
- 薬事委員会資料の作成・監修
- 薬剤費・薬価差益を考慮した先発・後発品の切り替えのアドバイス
法人・個人のどちらからも受け付けておりますので、ご要望は下記の問い合わせフォームよりご連絡ください。改めて担当者よりご連絡をさせていただきます。